アセチルコリンとアセチルコリン受容体 ~副交感神経を中心に~

関係する神経

アセチルコリンは、副交感神経の神経伝達物質として一般的に知られていますが、その他にも運動神経や交感神経の神経伝達物質として利用されています。アセチルコリンを神経伝達物質としている神経のことをまとめて、コリン作動性神経(こりんさどうせいしんけい)とも呼びます。以下に列挙します。

関連する化学物質

アセチルコリン(Acetylcholine :Ach)
アセチルコリン分子式
神経伝達物質として生体内で利用されている。
コリン(Choline)
コリン分子式
生体内でアセチルコリンが生成される元となる物質。
アセチルCoA(アセチルコエンザイムエイ)
アセチル・コエンザイム・A(アセチル補酵素Aという意味)と呼ばれる、コリンをアセチルコリンに変化させる際に使われる。分子式C23H32P2N5O12S、分子量810の補酵素(コエンザイム)です。
アセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase :AchE)
細胞外に放出されたアセチルコリンをコリンと酢酸に分解する。このおかげで、細胞外に放出されたアセチルコリンの影響が迅速に消失される。分解されたコリンは再度細胞内に取り込まれ、アセチルコリンの産生に再利用される。
ムスカリン(muscarin)
ムスカリン分子式
アセチルコリン受容体の1種である、ムスカリン性アセチルコリン受容体(ムスカリン受容体)に作用してアセチルコリンと同様の効果をしめす。つまりアゴニスト。
アトロピン (atropine)
ムスカリン受容体に作用するが、アセチルコリンと同様の効果をしめさない。アセチルコリンをブロックする遮断薬。つまりアンタゴニスト。投与する際は硫酸アトロピンとして用いる。分子式C17H23NO3、分子量289の薬物。
ニコチン (nicotine)
ニコチン分子式
アセチルコリン受容体の1種である、ニコチン性アセチルコリン受容体(ニコチン受容体)に作用してアセチルコリンと同様の効果をしめす。つまりアゴニスト。
d-ツボクラリン(tubocurarine)
ニコチン受容体に作用するが、アセチルコリンと同様の効果をしめさない。アセチルコリンをブロックする遮断薬。つまりアンタゴニスト。狩猟に使う毒槍につける毒として太古から利用されており、現在でも、筋弛緩剤として利用されている、分子式 C37H42Cl2N2O6、分子量682の薬物。

アセチルコリン受容体 (アセチルコリンレセプター)

迷走神経(副交感神経に属する)の終端より放出されたアセチルコリンの受容体が心臓にあることがわかっています。アセチルコリンがこの受容体に結合することで、心臓の活動が抑制され、拍動が遅くなります。その一方、運動神経と骨格筋の接合部でも、アセチルコリンの放出とその受容体があることが分かっています。こちらは、アセチルコリンが受容体に結合することで、骨格筋である横紋筋(おうもんきん)が興奮し収縮することがわかっています。つまり、アセチルコリンは心臓の細胞活動を抑制し、その一方、骨格筋を興奮させています。このようにアセチルコリンの作用は臓器によってまったく異なっており、アセチルコリン受容体は複数種類あることが推測され、実際にそれが確認されています。

アセチルコリン受容体は、ムスカリン性アセチルコリン受容体ムスカリン受容体)と、ニコチン性アセチルコリン受容体ニコチン受容体)に分けられることがわかっています。さらに、ムスカリン受容体は異なるタイプがあることがわかっており、M1~M5までのサブタイプが確認されています。ニコチン受容体についても、NN受容体とNM受容体の亜種があることが確認されています。

以下では、ムスカリン受容体とニコチン受容体について、もう少し詳しくまとめます。

ニコチン性アセチルコリン受容体 (ニコチン受容体・ニコチンレセプター)

その名前の通り、ニコチンがアセチルコリンと同様の効果を示す受容体です。つまり、ニコチンがアゴニストとして働く受容体です。その一方で、d-ツボクラリンという昔から使われている毒物もニコチン受容体に作用しますが、アセチルコリンが受容体に作用したような反応がおこりません。つまり、d-ツボクラリンは、アセチルコリンと競合して受容体に結合し、アセチルコリンの働きをブロックするニコチン受容体遮断薬です。

ニコチン受容体のサブタイプであるNN受容体とNM受容体について少し詳しく記します。

NM受容体 運動神経終末部分の神経骨格筋接合部に存在

運動神経末端のニコチン受容体とアセチルコリンの振る舞いは研究のすすんでいるトピックです。アセチルコリンがNM受容体に結合すると、NM受容体のナトリウムチャンネルが開き、ナトリウムイオン(Na)が細胞内に流れ込み、脱分極を起こし、細胞内の電位がプラス側に傾きます。これを興奮性シナプス後電位(EPSP)が発生する、あるいは、終板電位が発生するともいいます。

一方、細胞膜上には細胞内の電位がある閾値を超えると、ゲートを開き細胞外からNaを細胞内へ流し込む”電位依存型ナトリウムイオンゲート”が存在しています。EPSPの発生、つまり、脱分極が繰り返えされ、電位がこの閾値を超えるとゲートが開き、ナトリウムイオンが一気に流入しスパイク(活動電位)が発生します。

このスパイク電位(活動電位)は、細胞膜を伝わって行き、”T管”と呼ばれる細胞膜のくぼみに接して存在する”筋小胞体(きんしょうほうたい)”にまで伝わります。この筋小胞体は電位変化に反応するタンパク質を持っており、活動電位を検出すると、筋小胞内のカルシウムイオン(Ca2+)を細胞質内に放出します。このカルシウムイオンが直接のトリガーとなって筋が収縮します。

NN受容体 交感神経と副交感神経の節前線維終末(神経節部分)に存在

人為的にアセチルコリン(またはニコチン)を投与してNN受容体を刺激することで、交感神経と副交感神経の両方を興奮させることができます。NN受容体は、交感神経と副交感神経の両方の神経節部で、シナプスの受容体として興奮を伝達する役割をになっているためです。

NN受容体(NM受容体と同類のニコチン受容体)にアセチルコリンが結合すると、ニコチン受容体のナトリウムチャンネルが開いてNaが細胞内に流れ込み脱分極を起こします。脱分極を繰り返し、細胞内の電位がある閾値をこえると、電位依存性ナトリウムチャネルが開き活動電位を発生させます。

ムスカリン性アセチルコリン受容体 (ムスカリン受容体・ムスカリンレセプター)

アセチルコリン受容体のなかでも、ムスカリンに対して感受性のある受容体です。ムスカリンによって、アセチルコリンと同様の働きが起こります。その一方で、アトロピンはムスカリン受容体に結合しますが、アセチルコリンと同様の作用はありません。アトロピンは、アセチルコリンがムスカリン性アセチルコリン受容体(ムスカリン受容体)に結合するのを阻害する遮断薬の働きをします。

副交感神経末梢の節後節で、器官側細胞の受容体としてムスカリン受容体が存在しています。これらのムスカリン受容体を刺激(副交感神経を刺激して、末梢からアセチルコリンの放出を促進させる)と、支配している臓器細胞を興奮させたり、抑制させたりします。臓器によって作用がことなるのは受容体が異なることと、受容体が刺激された後におこる細胞内の反応機構が臓器によって異なるからです。ムスカリン受容体にはM1からM5までの5種類の存在が確認されています。この5種類の受容体の分布は臓器によって異なるため、副交感神経刺激によるアセチルコリンの放出に対する臓器の振る舞いが異なるわけです。

ここでは、心臓の洞房結節と腸管の平滑筋の2例について、その反応を詳しく解説することで、同じアセチルコリンによる刺激に対する細胞の応答の違いを確認します。

M2受容体 心臓の洞房結節における迷走神経(副交感神経)支配

心臓の洞房結節にはムスカリン受容体のM2タイプが存在していることが確認されています。ムスカリン受容体はニコチン受容体と構造が異なり、受容体自身はイオンチャンネルを持ちません。その代り、Gタンパクと呼ばれるタンパク質と結合しており、受容体にアセチルコリンが結合すると、このGタンパクを使って細胞膜にあるカリウムチャンネル(K)を開きます。細胞膜上のカリウムイオンチャンネルが開くとカリウムイオンが細胞内から外部に流れ出します。陽イオンが流れ出るために、細胞内の電位はよりマイナスに変位します。もともと細胞内の電位はマイナス側に偏っているので、さらにマイナスなる”過分極”の状態になります。これにより、なかなか活動電位を発生させる電位まで電位が上昇しにくくなります。このようにして、迷走神経刺激によるアセチルコリン放出は、心臓の活動を抑制し、心拍数を減少させます。

M2受容体、M3受容体 腸管の平滑筋における副交感神経支配

腸管(腸)の消化活動(蠕動活動)を行う平滑筋には、ムスカリン受容体のM2、M3の2タイプが存在しています。M3受容体にアセチルコリンが結合し、その後の細胞内の情報伝達機構により、陽イオンチャネルが開き、陽イオンが平滑筋細胞内へ流れ込み脱分極が起こります。脱分極が繰り返され、活動電位を発生させる電位まで電位が上昇すると、カルシウムイオンチャンネルが開き、カルシウムイオン(Ca2+)が細胞内に流れ込みます。これにより、細胞内のカルシウムイオン濃度が増し平滑筋が収縮します。このようにして、副交感神経刺激によるアセチルコリン放出は、腸の平滑筋を興奮させ(脱分極)、平滑筋収縮、蠕動運動を活性化させます。

アセチルコリン受容体のまとめ

ここで登場した器官に関するアセチルコリンの作用、受容体の応答等について下表にまとめます。

部位

自律神経の節前節終末

(神経節)

運動神経終末

(神経骨格筋接合部)

心臓

(洞房結節)

(平滑筋)

受容体の種類

(サブタイプ)

ニコチン性受容体

(NN受容体)

ニコチン性受容体

(NM受容体)

ムスカリン性受容体

(M2)

ムスカリン性受容体

(M2,M3)

興奮/抑制 興奮(脱分極) 興奮(脱分極) 抑制(過分極) 興奮(脱分極)
アゴニスト ニコチン ニコチン ムスカリン ムスカリン
アンタゴニスト ツボクラリン ツボクラリン アトロピン アトロピン

以上のように、一言でアセチルコリン受容体と言っても、異なった応答をする受容体サブタイプが器官ごとに存在するため、副交感神経の刺激(アセチルコリン)に対して様々な応答をすることが理解いただけると思います。