自律神経活動が心拍変動を発生させる仕組み その1

心拍数を決定する洞房結節と自律神経作用

洞房結節とは

心臓には、「洞房結節(どうぼうけっせつ)」と呼ばれる部位があり、拍動を統括しています。はじめに、この洞房結節について説明します。

心臓の活動を調べるために心電図がよく利用されますが、心電図は心臓が拍動する際に起こる電気の分布の変化を電位差として計測するものです。この事実から容易に想像できると思いますが、心臓の拍動と電気は密接な関係があります。実は、心臓の拍動は、心臓の各部分に張り巡らされている電気の通り道に沿って電気信号が流れることで、心臓の筋肉がギュッと収縮することで実現されているのです。この電気信号の通り道の開始点にあるのが「洞房結節」であり、電気信号の出発点なのです。

洞房結節には、いわばタイマーの役割を果たす細胞群があります。これらの細胞は、細胞内の電位を徐々に高めていき、閾値を超えると一気に電位を変化させて周囲に大きな電気的な変化を引き起こします。これを「脱分極(だつぶんきょく)」と呼んだり、「発火」と呼んだりします。この大きな電気信号の発生、つまり、洞房結節の発火は周期的に繰り返され、この電気信号が心臓全体に伝搬することにより、心臓が拍動するのです。平たく言うと、洞房結節は、「心拍のペースメーカー」なのです。

洞房結節をコントロールする自律神経

心臓のペースメーカーである洞房結節に大きな影響を与えているのが、交感神経と副交感神経(心臓迷走神経)の2種類の自律神経なのです。交感神経は拍動を加速させる働きを、副交感神経は拍動を遅らせる働きをしています。ここをもう少し詳しく解説します。

少し生理学、解剖学的な説明をすると、交感神経の神経線維は心臓全体に分布しているのですが、特に洞房結節の周りには密に分布しており、洞房結節への影響が大きいことが推察されます。交感神経が活発に活動すると、交感神経の末端からノルアドレナリンとよばれる神経伝達物質が放出されます。洞房結節のペースメーカー細胞上にあるβ1受容体というレセプターがこのノルアドレナリンを受け取ります。すると、ペースメーカー細胞は発火しやすくなり、したがって、心拍のペースが速くなるのです。ちなみに、神経伝達物質とは、生体内での情報交換に利用される化学物質の総称です。

もう一方の副交感神経(心臓迷走神経)ですが、こちらも神経の末端が洞房結節の周囲に密に分布しています。副交感神経が活発に活動すると、副交感神経の末端から、アセチルコリンと呼ばれる神経伝達物質が放出されます。ペースメーカー細胞にあるムスカリン受容体がこのアセチルコリンを受け取ります。すると、ペースメーカー細胞は発火しにくくなり、したがって、心拍のペースが遅くなるのです。

ちなみに、この心臓を支配している副交感神経を心臓迷走神経と呼ぶこともあります。心臓迷走神経という名前は、解剖学的な視点から与えられたものです。もう一方の副交感神経という名前は機能的な視点から与えられたもので、副交感神経は中枢から心臓以外の他の臓器にも伸びています。

内因性心拍数とは

このように、交感神経と副交感神経の活動のバランスによって、洞房結節のペースメーカ細胞の発火の頻度は変化するのですが、薬物で自律神経活動の影響を抑えたり、物理的に自律神経を切断することで、交感神経と副交感神経の活動の影響を受けなくすることができます。自律神経の影響を受けずにペースメーカ細胞が自分だけのペースで発火する場合の心拍数を内因性心拍数(ないいんせいしんぱくすう)と呼びます。内因性心拍数はかなり高い値で、20歳前後で毎分110拍程度、年を経ると徐々に下がっていって、70歳前後では80拍程度になります。私たちの心拍数は、平常状態で毎分60~70拍程度ですから、副交感神経の活動により心拍数を抑えられていることがわかります。